吉田玉男さん [文楽]
吉田玉男さんの訃報から1週間余り。先週末は、玉男さんのビデオをDVDに移植しました。数は少ないですが、自分の宝物です。玉男さんの使う人形には本当にその役柄の繊細な心の動きが見事に表現されていたと思います。自分は晩年の舞台しか拝見することはできなかったのですが、最後に見た冥土の飛脚(H17/5 国立劇場)での忠兵衛は本当に忘れることができません。
その時のパンフとチラシ
晩年は豪快な立役ということではなく、こういった繊細な表現を中心に舞台に立たれていらっしゃいましたが、この時の忠兵衛は凄かった。淡路町の段の最後の羽織落としの見せ場、封印切の前の八右衛門に諭されながらもいきり立つところの表現、簑助さんの梅川との掛け合い、どれも素晴らしいものでした。全体を通して馬鹿な印象を与える忠兵衛を、憎めない愛されるべき役柄として動きで表現するのは本当に難しいんだろうな、と素人ながら考えたものでした、、、
その2ヵ月後の大阪文楽劇場公演。自分が見に行ったときにはすでに玉男さんは休演になっていました。
玉男さん最後の公演パンフ
その後も9月東京公演(芦屋道満大内鑑)、今年1月の大阪公演(妹背山婦女庭訓)、と配役に名前が載るたび玉男さんを再び観たいと、必ず初日のチケットを取って駆けつけましたが、再び観ることはかないませんでした。
特に、2月東京公演で曽根崎心中の徳兵衛を玉男さんが遣うという夢のような配役が発表されたときは、夢中で初日のチケットを押さえました。簑助さんのお初との共演もおそらく最後、、、、なんとしても観たかったのです。しかし結局休演。それ以降は配役にもお名前が出ることはなくなりました。
自分の数少ない知識の中で最も印象に残っているのは、ひらかな盛衰記の樋口です。たまたま歌舞伎チャンネルで昭和30年代の映像資料が放映されていたものを録画したのですが、若き日の玉男さんが豪快に樋口を遣っているのを観て衝撃を受けました。紋十郎、先代勘十郎とオールスターの中で若い玉男さんが樋口を遣うというのはよほどの実力があったからなのでしょう。松右衛門内での見得をきるところ、逆櫓での豪快な立ち回りと木登りなど、津大夫さんの豪快な語りと相まってスケールの大きい舞台でした。
87歳と長生きされたということはあるにしても、あまりにも偉大であった人形遣いの訃報は非常に寂しく、今後の舞台はどうなってしまうんだろうと思ったりもします。ただ、まだまだ簑助さん、文雀さんと素晴らしい人形遣いがいらっしゃいますし、勘十郎さん、玉女さん、和生さんといった中堅の方も活躍していらっしゃいます。玉男さんの芸を受け継いだ方たちが、今後ますます素晴らしい舞台が観せてくれることを楽しみにしたいと思います。
ご冥福を心からお祈りいたします。
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